2026年4月、BTSの『ARIRANG』ワールドツアーが幕を開けました。ツアーは、4月9日・11日・12日の韓国・高陽(コヤン)公演から始まり、4月17日・18日には東京ドームへ。約7年ぶりとなる日本公演に、多くのARMY(BTSのファンの呼称)が集まりました。
この春のニュースは、「完全体での再始動」という大きな話題性を持っていました。一方で、公演の中身をよく見ると、ステージの形そのものに、BTSが今回の作品で伝えたかったことがはっきり表れています。360度に開かれたステージ、韓国の伝統を思わせる装置と振付、日替わりの選曲。どれも、ただ豪華なだけではない設計でした。
この記事では、まず高陽と東京の公演について確認できた事実を整理します。そのうえで、ステージの構造、韓国的モチーフの使い方、セットリストの組み立て方を、編集者の視点から読み解いていきます。
ニュースの整理|高陽3公演から東京ドーム2公演まで
まず、公式発表と報道で確認できた内容をまとめます。情報は2026年10月30日時点のものです。なお、この記事は公演を現地で観覧した体験記ではなく、公式発表や報道、公演レポートをもとにした整理と分析です。
ツアーの全体像
『BTS WORLD TOUR ARIRANG』は、5thアルバム『ARIRANG』のリリースを受けたツアーです。アルバムは2026年3月20日(韓国)に発売され、日本では翌21日に発売されました。
ツアーの日程は2026年1月中旬に発表され、アルバムのタイトルが『ARIRANG』であることも、その直後に明らかになりました。ツアーはアルバム発売前から、大きな関心を集めていたことになります。
Billboard JAPANは、4月時点でツアーが世界34都市・85公演の予定だと伝えています。グループとしても、韓国のアーティストとしても、過去最大規模になる見込みという報道です。その後も追加公演の発表が続いており、公演数は変動しています。この記事で触れる数字は、あくまで4月時点の報道に基づくものです。
高陽公演:約3年半ぶりの本格的なスタジアム公演
ツアーの初日は、4月9日の高陽総合運動場メインスタジアムでした。NMEは、BTSにとって約3年半ぶりの本格的なコンサートだと紹介しています。
同メディアによると、4月9日の公演は全23曲で、新曲の「Hooligan」「Aliens」で幕を開け、続けて「Run BTS」を披露しました。Consequenceは、アルバム『ARIRANG』のほぼ全曲が披露されたと伝えています。高陽では4月11日と12日にも公演が行われました。
東京ドーム公演:約7年ぶりの日本、2日間で約11万人
日本公演『BTS WORLD TOUR ARIRANG IN JAPAN』は、4月17日・18日の2日間、東京ドームで開催されました。主催側の発表では、2日間で約11万人を動員したとされています。2019年7月の『LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF』のJAPAN EDITION以来、約7年ぶりとなる完全体での日本公演です。
4月18日の東京公演は、日本全国346館の映画館でのライブビューイングと、Weverseを通じたオンライン配信も行われました。会場に足を運べなかったファンにも、届け方が用意されていた形です。
2つの「空白」が重なった公演
東京ドーム公演には、2種類の空白が重なっていました。ひとつは、完全体として活動を再開するまでの約3年9か月。もうひとつは、日本のファンの前に7人でそろって立つまでの約7年です。
高陽公演が「約3年半ぶりの本格的なスタジアム公演」と紹介されたのに対し、東京ドーム公演は、日本のファンにとって空白が二重に積み重なった再会でした。レポートが「再会」という言葉を繰り返し使っていたのも、こうした背景を踏まえると自然に受け止められます。なお、この「二重の空白」という整理は、確認できた日付をもとにした編集者の整理です。
数字を読むときの注意
動員数や公演数は、集計元や発表のタイミングによって数字が異なることがあります。たとえば東京ドーム公演の動員数は、主催側の発表と、興行データを扱う海外メディアの集計とで差が出る場合があります。この記事では、出典が分かる主催側の発表を使い、「約」と添えて紹介しています。
360度ステージが変えた、ドームの「見え方」
ここからは分析が中心です。東京ドーム公演の報道で最も多く語られていたのは、会場の中央に置かれた360度のステージでした。この構造が、公演全体の体験をどう変えたのかを考えます。
どこにいても「正面」になる構造
一般的なドーム公演では、メインステージが会場の一方向に置かれ、座席によって見え方が大きく変わります。今回は、客席とステージの境界を小さくする360度の開放型ステージが採用されました(THE FIRST TIMESの公演レポートによる)。
この形は、どの席も「後ろ側」にならないという特徴を持ちます。メンバーは常にどこかの方向を向いており、すべての客席が正面になる瞬間と、背中側になる瞬間の両方が生まれます。座席の優劣が薄まる分、会場全体で同じ時間を共有している感覚が強まったと考えられます。
慶会楼を思わせるパビリオンと、太極旗をもとにした床面
ステージ中央には、かつて国賓を迎えた景福宮の「慶会楼」をモチーフにしたパビリオンが設置されました。さらに、床面とサブステージには、韓国の国旗である太極旗の思想に基づく「乾坤坎離(けんこんかんり)」の考え方が取り入れられたと報じられています。
つまり、ステージの「建物」と「床」という、空間の骨格にまで韓国的な意匠が及んでいました。照明や映像で雰囲気を足すのではなく、会場そのものを作り替えるアプローチです。観客は、ステージを「見る」だけでなく、その空間の内側に入るような感覚を味わえたのではないでしょうか。
ステージを降りる場面が生む距離感
360度の開放型ステージは、客席との境界が小さいことが特徴です。報道では、「IDOL」の場面でメンバーがステージを降り、会場を歩きながら観客と視線を交わしたと伝えられています。
境界が小さい構造だからこそ、ステージを降りる動きが自然につながったと考えられます。空間の設計と演出の動きが噛み合っていた例として、この場面は分かりやすいものです。
「一人ひとりが当事者」という見立て
Billboard JAPANのライブレポートは、この360度ステージを、会場のどこにいても熱量が届く構造だと評しています。そのうえで、観客一人ひとりが音楽空間をつくる当事者であることを伝えようとしているように感じられた、と読み解きました。
これは評論家の見立てであり、BTS自身が語った意図とは限りません。ただ、ステージの形、観客との距離、そしてのちに触れるMCの内容を並べると、「届ける側」と「受け取る側」を分けすぎない設計という見方には、一定の説得力があります。
韓国的モチーフは「4つの層」で使われていた
今回のステージで特に目立ったのが、韓国の伝統文化を思わせるモチーフです。報道された内容を整理すると、モチーフは映像・装置・振付・小道具の4つの層に分けて配置されていたことが分かります。
映像:伝統仮面「タル」のイメージ
THE FIRST TIMESのレポートによると、「they don’t know ‘bout us」では、韓国の伝統的な仮面「タル」をモチーフにした映像演出が使われました。開幕でも、仮面姿のダンサーのなかからメンバーが登場する演出があったと伝えられています。
なお、開幕の描写は報道によって少しずつ異なります。大きな旗が掲げられたあと客席の通路から登場したとする報道もあります。いずれにせよ、登場の瞬間から韓国的な意匠が重ねられていたことは共通しています。
振付:僧舞とカンガンスルレを思わせる動き
「Merry Go Round」では、伝統舞踊の「僧舞(スンム)」を想起させる振付が披露されました。「Body to Body」では、手をつないで輪になって踊る民俗舞踊「カンガンスルレ」を思わせるパフォーマンスがあったとされています。
どちらも、あくまで「想起させる」振付として紹介されており、伝統舞踊そのものを再現したわけではありません。伝統の動きを現代のダンスの文脈に溶け込ませることで、古い型を「見せる」のではなく「使いこなす」姿勢が表れていたと考えられます。
小道具:巨大な布が描いた「波」
タイトル曲「SWIM」では、巨大な布を使って波を表現する演出がありました。曲名と演出が直接結びついた、分かりやすい場面です。
この場面は、韓国的な要素というよりも、「水」というモチーフの視覚化として機能しています。伝統的なモチーフだけに頼らず、曲ごとに最適な表現を選んでいることが分かる例です。
「飾り」ではなく「語り方」として
ここまでの要素を並べると、韓国的なモチーフが「飾り」として一か所に集められているのではなく、公演の隅々に分散していることが分かります。映像、装置、振付、小道具のそれぞれが、同じ方向を向いているのです。
アルバム『ARIRANG』は、BTS自身のアイデンティティと、国や文化を越えて共感できる感情をテーマにした作品です。「アリラン」は、韓国で歌い継がれてきた民謡の名でもあります。そのタイトルを冠した作品のツアーで、ルーツを意識した意匠を公演全体に行きわたらせる。これは、作品のテーマをステージの語り方に変換する試みだったと見ることができます。
Billboard JAPANのレポートは、演出を飾り立てるだけでなく、ルーツへ立ち返り、シンプルなことの尊さに気づくことも進化のかたちだと述べています。この見方に沿えば、今回の装置や意匠は、豪華さを見せつけるためというより、作品の背景を観客に伝えるための道具として使われていたことになります。
音楽評論の側からも、似た見方が示されています。Billboard JAPANはルーツを起点にした進化と評し、Realsoundは東京ドーム初日を「自分たちは何者か」という問いに向き合う公演として描きました。評価の言葉は違っても、公演の核にルーツへの意識を置いている点は重なっています。
セットリストの設計|新作から始まり、日替わりで変化する
次に、曲の並べ方を見ていきます。高陽と東京の報道を照らし合わせると、いくつかの設計が見えてきます。
開幕から前半:新作で始まる
東京ドーム公演は、「Hooligan」「Aliens」といった『ARIRANG』収録曲で始まり、続けて「Run BTS」を披露しました。高陽の初日と同じ流れです。開始早々に会場の熱気を一気に高める構成でした。
その後、「they don’t know ‘bout us」「SWIM」「Merry Go Round」と進みます。ここまでで、新作の世界観を観客に印象づける流れが作られていました。過去のヒット曲で観客を安心させるより前に、まず新作の世界へ引き込む順番だったと言えます。
タイトル曲「SWIM」の置かれ方
高陽初日の曲順を見ると、タイトル曲「SWIM」は7曲目に置かれ、その直前には過去のヒット曲「Fake Love」が披露されています(Consequenceなどが伝えた曲順による)。
タイトル曲を最初に持ってくるのではなく、数曲進んだ位置に置く。しかも直前に過去の代表曲を挟んでいる。この並びは、過去の曲から新作のタイトル曲へ橋渡しをする流れとして読めます。観客が新作の世界へ入っていきやすい順番だったと考えられます。ただし、東京での曲順は報道で詳しく確認できないため、高陽初日の例として紹介しています。
後半:誰もが知る曲が続く区間
後半には、「Not Today」「MIC Drop」「FYA」「Burning Up (FIRE)」といった、観客と一緒に声を出せる曲が続きました。「MIC Drop」では、メンバーの名前をひとりずつ叫ぶ掛け声が起きたと伝えられています。
さらに「IDOL」では、メンバーがステージを降りて会場を歩き、観客と視線を交わしました。「Butter」「Dynamite」は、日本のステージでは初めての披露になったとされています。360度ステージの距離の近さが、こうした場面の効果を高めていたはずです。
日替わりの2曲という仕掛け
報道によれば、このツアーでは、「Dynamite」のあとに、過去の曲から2曲が日ごとに入れ替わる枠として披露されます。東京公演では、4月17日が「Save Me」と「Crystal Snow」、4月18日が「Dope」と「FOR YOU」でした。なお、この枠の曲がどのように決まるのかは、公式には明らかにされていません。
「Crystal Snow」と「FOR YOU」は、日本オリジナル曲です。この2曲の披露は、公演のハイライトのひとつとして紹介されており、7年ぶりの再会という文脈と深く結びついていました。日本オリジナル曲が日替わりの枠に入ったことは、「その日だけの公演」という価値を生みました。
高陽の3公演でも、日替わりの枠は設けられていました。報道によれば、4月9日は「Mikrokosmos」と「I Need U」、4月11日は「Take Two」と「DNA」、4月12日は「Spring Day」と「Run」が披露されています。
高陽と東京の選曲を並べると、場所ごとの文脈が日替わり枠に映っているようにも見えます。韓国ではファンに長く愛されてきた曲が、日本では日本オリジナル曲が選ばれました。ただし、選曲の理由は公表されていないため、あくまで結果から見た整理です。
日替わりの枠があると、複数日に参加する動機が生まれ、ファン同士の感想の違いも語り合いやすくなります。ライブの余韻をSNSなどで共有しやすい仕組みとも言えますが、これは構造から見た見方であり、実際の反応の規模を示すものではありません。
固定された骨格と、動く変数
高陽と東京の報道を重ねると、公演の骨格はほぼ共通しています。開幕は「Hooligan」「Aliens」「Run BTS」、新作の楽曲群が前半を担い、後半にはヒット曲が並び、最後はアンコールで締めくくられます。
この固定された骨格のなかで、変わるのは日替わりの2曲とMC、そして客席との呼応です。変えない部分と変える部分を分けておく設計は、巨大なツアーを同じ品質で回し続けるための現実的な工夫とも読めます。同時に、各公演に「そこにしかない時間」を残す仕掛けにもなっています。
アンコール:ライブ初披露の2曲で締める
アンコールでは、「Please」と「Into the Sun」が披露されました。NMEによれば、この2曲は高陽公演の初日がライブ初披露でした。
公演は新作で始まり、ライブ初披露の曲で締めくくられたことになります。その間に過去のヒット曲を置く構成は、「過去を振り返る公演」ではなく「いまを見せる公演」という意図を感じさせます。もちろん、これも構成から読み取れる一つの見方です。
日本のARMYにとっての参加のかたち
東京ドーム公演は、会場に入れた人だけのものではありませんでした。ここでは、日本のARMYにとっての「参加のしかた」を整理します。
映画館とオンラインで広がった接点
4月18日の公演は、全国346館の映画館でのライブビューイングと、Weverseでのオンライン配信が行われました。会場の外にいるファンも、同じ時間に公演を見られる仕組みです。
約11万人が会場で見守った公演に、映画館とオンラインの観客が重なる。参加のかたちが複数用意されていたことは、これだけの規模のツアーならではの特徴です。
チケットと会場周辺:公演前から始まっていた参加
報道によれば、東京ドーム公演のチケットはファンクラブ先行などの販売で申し込みが集中し、すぐに完売しました。直前には、機材開放席の販売も行われたと伝えられています。
会場周辺では、4月16日から19日にかけて、コラボイベントも開催されました。公演そのものだけでなく、前後の時間も含めて楽しむ流れができていた点は、ライブ体験の広がりを示しています。ただし、イベントの詳しい規模や内容までは確認できていません。
MCに表れた「再会」の言葉
MCでは、約7年ぶりの再会を喜ぶ言葉が語られたと報じられています。SUGAは、久しぶりにドームに立てた喜びと、これからはもっと頻繁に会いに来たいという思いを伝えました。Jung Kookも、1日でも多く会いに来たいと話しています。
Vは日本語の勉強を続けると呼びかけ、Jiminは手紙にしたためたメッセージを読み上げたとされています。発言の細かな表現は、公演レポートごとに異なる場合があります。ここでは、レポートで共通して伝えられている趣旨のみを紹介しました。
これからの接点:放送と追加公演
公演後も、日本のファンが映像で楽しめる機会は続きます。報道によれば、4月17日の東京ドーム公演は、CS放送のTBSチャンネル1で11月28日20時からテレビ初放送される予定です。TBSテレビでは、11月5日深夜2時5分から、東京ドーム公演のダイジェストを含む特別番組も放送されると発表されています。
また、ツアーは今後も世界各地で続く予定で、日本と中東での追加公演も計画されていると報じられています。放送日時や追加公演の詳細は変更される可能性があるため、公式の案内で最新情報を確認してください。
映像で見返すときの3つの視点
放送や配信などで公演の映像を見る機会があれば、次の3点に注目すると、ここまでの分析を自分の目で確かめられます。
視点①:登場の瞬間に何が映っているか
旗、仮面姿のダンサー、客席の通路。報道ごとに描写が違う開幕は、映像で確かめやすい部分です。誰が、どの方向から、どんな意匠とともに現れるのかを見ると、冒頭で何を伝えようとしていたのかが分かります。
視点②:韓国的モチーフが「どの層」で出てくるか
曲ごとに、映像、装置、振付、小道具のどれでモチーフが使われているかを見分けてみてください。同じ「韓国的」でも、層によって見え方や役割が違うことに気づけるはずです。
視点③:カメラが客席をどう映すか
360度ステージの公演では、客席の映し方にも特徴が出ます。観客が「見る側」にとどまらず、公演を作る一員として映されているかどうか。Billboard JAPANが指摘した視点を、映像で確かめる手がかりになります。
まとめ|『ARIRANG』ツアーは「ステージの形」でも語っていた
ここまでの内容を、事実と分析に分けて整理します。
事実として押さえておきたいこと
ツアーは4月9日の高陽公演で始まり、4月17日・18日に東京ドームで日本公演が行われました。東京ドームは約7年ぶりの日本公演で、主催側の発表では2日間で約11万人を動員しています。4月18日の公演は、全国346館のライブビューイングとWeverseの配信でも届けられました。
分析から見えてきたこと
360度の開放型ステージ、慶会楼を思わせるパビリオン、タルや僧舞、カンガンスルレを想起させる意匠。これらは、映像・装置・振付・小道具の各層に分散して配置されていました。日替わりの2曲という仕掛けも含めて、公演の設計全体が、作品のテーマである「ルーツ」と「つながり」を軸にしていたと読み取れます。ただし、これは編集者の見方であり、BTS自身の意図を断定するものではありません。
次に確認したいこと
ツアーはまだ続いています。日本での追加公演や、今後の放送の情報は、公式発表を確認しながら追っていきたいところです。東京ドームの2日間のうち、もし映像でもう一度見られるとしたら、どの場面をじっくり見返したいでしょうか。360度ステージだからこそ生まれた距離感に、改めて注目してみるのもおすすめです。


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